大学院生として在籍していなくても臨床研究には参加しますが、大学院生として在籍することでもう少し基礎的な研究に参加する時間が設けられます。
現在のところ当研究室では、主にFunctional MRIやNIRSを使った画像的研究と脳腸相関の研究を2本柱で行っています。
画像的研究の方では、プレパルスインヒビションについてや心理テストを行ったときの反応を画像的に解析することを行っています。
もう一つが脳腸相関の研究です。こちらは当大学の基礎医学系生体防御学の古賀泰裕教授のチームと協力して研究を行っています。こちらの研究チームでは、日本で数施設しか稼働していない、マウスを無菌の状態(Germ-Free)や特定の細菌のみ定着させた状態(Mono-Associated)で飼育することができる設備を持っています。細菌の出入りを無くしたビニールハウスのようなアイソレーターを用い、マウスを何世代も飼育しています。
これが実際の研究室のアイソレーターの写真です。これらを活用し、ほぼ同一の飼育条件及び遺伝条件下における、Germ-FreeやMono-Associatedのマウスがほぼ通常の細菌状態のマウス(Germ-FreeマウスにSpecific Pathogen-Freeの細菌叢を定着させた; Ex-Germfree)などの行動を比較検討しています。
これから精神科医になろうと考えている方には、脳腸相関という言葉はあまり馴染みはないかもしれません。しかし現在、過敏性腸症候群などの研究を通じて、ストレス時に腸管神経叢末端からカテコラミンが放出されたり、免疫抑制や腸管運動の変化が起きることが示され、脳→腸という方向での影響が明らかにされるとともに、腸→脳への情報伝達に注目が集まっています。これらの脳と腸の両方向性の相互作用のことを脳腸相関といいます。
また、一部の細菌のquorum sensing(密度を認識して物質産生量を調整する機構)などに使われるAutoinducer-3(AI-3)はノルアドレナリンと近い構造をしており、ヒトの腸管のアドレナリン受容体はAI-3を認識し、細菌表面のAI-3の受容体QseCはノルアドレナリンを認識するといわれており、生物分類の根本から違う宿主と細菌がその垣根を越えて情報伝達していることが示唆されています。
これらのことから、細菌は腸と情報伝達し、腸は脳と情報伝達し、精神活動のような高次機能も影響され得ると考えています。実際同様に考え、Germ-FreeとSpecific Pathogen-Freeのマウスの行動解析した結果、違いがあるとの論文もいくつか報告されています。但し、マウスの精神活動は環境による影響も大きく、本当に細菌の違いだけが影響か判り辛いため、環境をできるだけ一致させる必要がありますが、そこがこれらの研究の難しいところです。現在まで報告されている行動解析の結果は、アイソレーターの外に一旦持ち出して行動解析をしたものばかりですが、当研究チームではアイソレーター内で行動解析する方法を確立し、アイソレーター内でOpenfield testやMarble-Burying testという方法を用い、マウスの多動性や不安など精神活動の指標となる行動を解析しています。